毒と薬

寅さんの〈毒〉

かれこれ10年以上、毎月2回、豊寿苑の1階にスクリーンを設置して映画上映会をおこなっています。

ご利用者層の介護度の重度化にともない、かつてのように小津安二郎や溝口健二のような名匠の作品を上映するのは年々むずかしくなってきています。代わって、片岡千恵蔵や市川右太衛門の東映プログラム・ピクチャーのようなわかりやすい往年の娯楽映画がふえてきています。

この1月の〈寅さん特集〉もそのひとつ。シリーズ全48作から、昭和44年公開の第2作『続・男はつらいよ』と翌年公開の第5作『男はつらいよ 望郷篇』を上映します。

かつてわたしは寅さん映画を気嫌いしていました。理由は「俗っぽい」から。ところが観てみると意外とおもしろい。何に感心したかって、渥見清をはじめとする出演者たちがみな芸達者なことです。

なかでも、渥見と同じ浅草のコメディアン出身で、おいちゃん役の森川信の存在感がすばらしい。森川は残念ながら昭和47年に病没して、8作目の『男はつらいよ 寅次郎恋歌』が最後の出演作になってしまいました。

エノケン(榎本健一)も、シミキン(清水金一)も、アリチャン(有島一郎)も、浅草出身の芸人たちの演技には「俗っぽさ」を装いながらも大衆離れしたところがありました。堅気ではないはずれ者の血とでもいいましょうか。

寅さん映画を「庶民的」のイメージだけでとらえると収まりが悪いのは、渥美のなかの息づく、そんな浅草芸人の血が〈毒〉を呼び込んでいるせいだと感じます。

2010.01.17 | 音楽とアート