毒と薬

肩もむオヤジと肩もませるオンナ

今年、新卒で入職した女性スタッフの話です。
入職したてのころは緊張で表情がこわばっていた彼女。それが、近ごろではご利用者やスタッフたちにすっかりとけ込んで、本来の明るい笑顔が戻っています。

そんな彼女が、リハビリのスタッフたち(おもに女性)からときおり肩をもんでもらっている光景を見かけるようになりました。彼女はデスクワークが中心なので、そのわきをリハビリのスタッフが出退勤時に通りかかるうちに親交を深めていったのでしょう。肩もみは親愛の証であり、なによりも双方の屈託のない笑顔がそのことを物語っています。

それで思い出したのが、パソコンに向かっている若いOLの背後にまわって「○○くん、ガンバッとるネェ」と肩をモミモミしていたセクハラ上司のことです。わたしが20、30代のころは、この手のオヤジがゾロゾロいました。COP10が地元・名古屋で開催されるいまでは、部下をムリヤリ飲みにさそい説教をたれる「飲みにケーション・オヤジ」とともに、絶滅危惧種となってしまいました。

肩をもむセクハラオヤジと、肩をもませる新人オンナ。共通するは愛情をあらわすコミュニケーションである点、ちがうのは一方的な好意か、双方の合意かという点です。
セクハラ上司の背後には、性差、年齢、役職などによる権力構造が横たわっています。これにくらべれば、後者は平等主義的で平和的です。

しかし、くりかえしますが、これは「比較すれば」の話です。じっさいは、年長のリハビリ・スタッフたちよりも新人の彼女のほうが「優位」に立っているように映ります。これは、サービスを提供する側とされる側との非対称的な関係がもたらす視覚イメージであるのはまちがいありません。

そうだとしても、この堂々としたもまれっぷりはなんなのだ?
それで思いあたったのが、母親や目上のサルが子ザルにおこなうグルーミング(毛づくろい)。霊長類はグルーミングによって、家族や群れの絆や序列を確認し補強しているといわれています。しかも、グルーミングには脳内快楽物質βエンドルフィンを放出し緊張緩和をもたらす効果があるといいます。

なるほど、あの堂々とした態度は、「親やまわりの大人たちが好きで面倒を見ているのだから」と平然としていられる子どもの無邪気さに近いのでしょう。

かわいいので、おネエさま方がつい面倒見たくなるのもわからなくはないものの、「勤務時間外に他人の目のないところでやってもらえ」とそっと忠告しておきました。

2010.10.13 | 介護社会論