双寿会からのお知らせ

「身体拘束」について考える

昨年12月、計2回にわたって、当施設の主に看護と介護スタッフを対象に「身体拘束」「高齢者虐待」についてのセミナーを開きました。企画・構成・デザイン・出演はすべて私一人でやりました。

レジュメを読みながらこちらが一方的に話すだけでは、スタッフは退屈でしょうし頭に入ってこないと思ったので、パワーポイントでビジュアルを中心にスクリーンに映し、かれらの様子を見ながらフレクシブルに流れを作っていくライヴ・パフォーマンス・スタイルでおこないました。

今回、主要な題材として、平成29年11月19日〜12月10日、朝日新聞の日曜版「フォーラム」で全4回にわたって特集された「身体拘束」の記事を選びました。

それらは「身体拘束」に関わるデジタルアンケートの結果を示したグラフとさまざまな意見から構成されています。

このアンケートで興味深かったのは、「『身体拘束』は本人や周りの人を守るためにやむをえないと思うか?」の質問に対して、「安全を優先すべき」と答えた人たちの大部分が、身体拘束について「ニュースなどで聞いたことがある」、あるいは「職場や家庭で拘束に関わったことがある」と答えた人たちだったことです。

いっぽう、同じ質問に対し「本人の尊厳を優先すべき」と答えた人たちの多くは「自分や家族が身体拘束を受けたことがある」と答えていました。

つまり、身体拘束を〝他人事〟と思えるような人たちほど、尊厳より安全重視の考えが強いということです。

看護・介護の現場では業務の効率的な遂行が求められるせいで、尊厳より安全重視に向かいがちということなのでしょうか?

スライド04

(図1)朝日新聞のグラフをもとに再作成

じつは、セミナー開始前に、上の設問を含む、朝日新聞にあったのと同じ3つの設問を出席者に対して無記名アンケート形式でおこないました。

回収した用紙はその場で相談員に集計してもらい、それを3分間の休憩中にパワポにグラフ化し、リアルタイムにスクリーンに映し出してみました。

結果は以下の通りです。比較のため、それぞれについて朝日新聞のアンケート結果も併載しています。なお、下記はセミナー2回分のアンケートをまとめたものです。

 

【設問1】

「身体拘束」は本人や周りの人を守るためにやむをえない、としておこなわれています。これについて、あなたの考えにもっとも近いのはどれですか?

《朝日新聞アンケート》

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《豊寿苑アンケート》

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【設問2】

もっとも大きな原因は人手不足であり、それが解消すれば多くの身体拘束はなくなる、という意見に…

《朝日新聞アンケート》

スライド05

 

《豊寿苑アンケート》

スライド10

【設問3】

医療や福祉の担い手の意識が変わらなければ、身体拘束はなくならない、という意見に…

《朝日新聞アンケート》

スライド06

 

 

《豊寿苑アンケート》

スライド11

 

驚いたのは、1回目のアンケート結果に経験年数の浅いスタッフが数多く出席した2回目の結果を足した途端、安全重視の考え方、人手不足のせいという考え方が一気に高くなったことです。

これは、経験と知識と技術が伴わないと、尊厳の大切さを説いても響きにくいということだと思います。

また、当施設で身体拘束がまだおこなわれていた時代、スタッフ数は現在よりもはるかに多くいたにもかかわらず、スタッフは人手が足りないからと説明していました。
この事実をかれらはどう受けとめるか、聞きたいところです。

セミナー後半は、スタッフ・アンケートの結果をもとに、身体拘束に関する出席者からの質問や意見を交換する時間に充てました。

「自分の家族が身体拘束されるのはいやだけど、仕事では事故防止のため、ときには必要だと思う」とか、「本人や家族が身体拘束を希望した場合、どうすればいいか?」とか、「病院を退院して再入所された方がミトンをしていて悲しくなった」とか、経験1〜3年ぐらいのスタッフを中心に率直な意見や質問が発せられました。

「身体拘束が禁止である」ことは彼女たちもよくわかっています。それでも彼女たちは、たぶんこう言いたかったんです。

「マネージャーは現場で介護していないから『尊厳こそ大事』だの、『身体拘束禁止』だのと、きれいごとばかり言えるんでしょうけど、現場はタイヘンなんです」と。

だからこそ、彼女たちの本音に耳を傾けてあげることが大切なのです。

最後に私はこう締めくくりました。

「それでも、私は理想を掲げます。」

※追記

第1回セミナーの前日、朝日新聞、最終回の12月10日(私の56回目の誕生日で〝奈良マラソン〟当日)に掲載された「勉強会で尊厳を考える」の冒頭の記事を読み始めたところ、あまりに私の考え方と近いので不思議に思ったら、なんと!私が朝日新聞のアンケートに答えて投稿した文章でした。

掲載されるとは知らず、憤りを感じながら一気呵成に書いたため、極論に走った悪文なの恥ずかしいのですが、あえて全文、掲載させていただきます。

「介護老人保健施設の経営管理責任者です。スタッフから人手が足りないからとか、その人の安全確保のためとかの理由でやむをえず身体拘束をしたという説明はこれまでもたくさん聞かされましたが、どれもこれも自己正当化のための詭弁(きべん)でした。『身体拘束を減らす』では介護現場はリスクを避けようと『例外』として身体拘束を続けることでしょう。だから当施設では『身体拘束は禁止』としました。同時に『ダメだからダメ』で終わらせるのではなく、人間の自由と尊厳がなぜ大切かについて、哲学や倫理学や法学などを援用しながらスタッフにわかりやすく説明し、自覚してもらえるよう地道に勉強会を開いています。スタッフ教育、これしかありません」(愛知県・50代男性)

「朝日新聞 〈フォーラム〉 身体拘束:4 一歩ずつ」より

 

2018.01.04 | 介護社会論