双寿会からのお知らせ

TSUTAYAと提携する小牧市新図書館はスタバ?

新図書館の外観イメージ(小牧市HPより)

新図書館の外観イメージ(HPより)

小牧市が進める新図書館建設計画の賛否を問う住民投票が、10月4日、市会議員選挙投票日と合わせておこなわれることになりました。

新図書館の建設予定地は、豊寿苑から徒歩5分、小牧駅東口に市が所有する一等地です。ここに延べ床面積は現在の2.6倍、最大収容冊数は2倍強の約50万冊という図書館を約42億円かけて平成30年(2018)のオープンをめざすというものです。

この図書館は、大手レンタル店TSUTAYAを運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)などの民間業者と連携して、基本設計から開館後の運営管理まで携わってもらうということです。

この計画は市民の意見をじゅうぶんに聞いた上での決定ではないので白紙に戻すべきである、と市民グループ「小牧の図書館を考える会」が署名を集めて、今回の住民投票にこぎつけました。

この話を聞いて思ったのは、民間の指定管理者がTSUTAYAでなく、小説家・詩人の辻井喬(つじいたかし)でもあったセゾングループ元代表の堤清二が創業した書店リブロだったら、ここまでの反発を招いただろうか、ということです。

CCCは、俗っぽいレンタル業者TSUTAYAのパブリック・イメージを払拭しようとしてか、東京・代官山に建築やレイアウトに気を配った蔦屋書店というハイセンスな書店もやってます。そこは、場所柄もあるでしょうが、本の中味そのものよりも本をめぐるライフスタイルにこだわっている感じです。

代官山 蔦谷書店(HPより)

代官山 蔦屋書店(HPより)

年中無休で夜まで営業、カフェを併設するという新図書館も、基本的にはそんなライフスタイル提案型のコンセプトに則っているのかもしれません。

そう思うと、小牧市に先行してCCCが指定管理する佐賀県の武雄市図書館の蔵書に、10年以上前の公認会計士試験対策本やら、埼玉県のラーメンマップやらが混ざっていても驚くに当たりません。なぜって、大切なのは全体としての見た目と雰囲気であって、個々の具体的な中味なんて二の次なんですから。

武雄市図書館(HPより)

武雄市図書館(HPより)代官山蔦屋書店と比較してみよう。まさしく金太郎飴!

ことわっておきますが、私は「図書館のデザイン化はけしからん」といいたいのではありません。なんといっても、私は「思想はファッションでもある」という80年代ポスト・モダン世代ですから、図書館をスタイリッシュにデザインすることには基本的に賛成です。

ただ、CCCのセンスが気に入らんのです。

なんというか、一見、洗練されてはいるんだが没個性的。ビッグ・データから導き出されたマーケティングにもとづく広告代理店的なステレオタイプ(金太郎飴)の機能美みたいで、ハイセンスどころか、小っ恥ずかしくなります。じつに寒い。

そういえば、小牧の新図書館には、武雄市図書館と同様、スターバックスが入るといううわさがあります。

なるほど、スタバか。CCCが携わる新図書館の基本設計や方針も、全国のどこへ行っても金太郎飴のスタバなんでしょうね。もちろん、「ジモト」ならではの独自性を打ち出すかと思いますが、それもハローキティーのご当地限定みやげレヴェルにとどまることでしょう。

私が理想とする図書館は、たとえていえば、豆にこだわる店主が運営する自家焙煎のコーヒー店です。でも、実際問題、この小牧で、そんなコーヒーをわざわざ飲みに来る人たちがどれだけいるのか? いないでしょう。

では、現在の図書館はどうかというと、酸味の強いブレンド・コーヒーにおつまみが付いてくる、常連さんしか来ない昔ながらの喫茶店です。小牧市立図書館へはこれまでにも何度も足を運びましたが、自分が探している本が置いてあった試しがありません。地元である小牧・長久手の戦い関連の本を探しに来たときも、思っていたほど揃ってなくて愕然としました。本棚のレイアウトも公立の小中学校に毛が生えた程度のレヴェルでダサダサ。とても「おとな」の行くところには思えません。ただ、建物はすばらしいので、なんらかのかたちで残してもらいたいものです。

現在の小牧市立図書館外観(建築PICNICより)

現在の小牧市立図書館外観(「建築PICNIC」HPより)

そんなわけで、私は「TSUTAYA方式」を採ろうが、採るまいが、はなから新図書館の「中味」には期待できないと思っています。だって、どっちに傾こうがポピュリズムを貫くのに変わりはないのですから。

そもそも、「TSUTAYA方式」推進派にとっては、新図書館の蔵書内容なんかどうだっていいことです。大切なのは、新図書館に多くの人が集まって小牧駅前が活性化することなのですから。いってみれば、図書館の名を借りたアミューズメント・パーク。この場合、本は手段であって目的ではないのです。悲しい話ですが。

といって、今回の住民投票で新図書館建設計画が見直しになったとしても、「良識派」と目される「市民たち」がイニシアティブをとるのであれば、図書館は愛書家としての私の意に沿うものにならないでしょう。

だから、判断に迷いました。そして、悩んだあげく、こう結論しました。

中心市街地を活性化するのに、行政機関としての小牧市にやれる最善の策は、新図書館の建設ぐらいしかないかもしれない! 成功するか失敗するかは別として。

民間活力導入の是非については、昔ながらの喫茶店の延長線上にある「コメダ」が来るぐらいなら、「スタバ」の方がまだマシ、といったところでしょうか。

願わくば、本と小牧をこよなく愛し、こだわりと情熱を持ったバイタリティあふれる司書が現れんことを。

(2015/09/30)

 

この記事についてツイートしたところ、いろいろとご意見をいただきました。

それで思ったのは、一過的な地域活性化とポピュリズムのために、図書館という文化の 〈聖域〉 を、ツタヤごときに明け渡すのは小牧市民として恥である、ということです。

文化は、未来を見据えた持続可能性 sustainability がないとダメだと思います。

私は「Tカード」なんていらない!

(2015/10/2)

2015.09.30 | カルチャー