毒と薬

コロナ予防対策が介護施設の経営を圧迫している現実

令和5年2月1日の『中日新聞』朝刊第一面に、こんな見出しの記事が掲載されました。

「物価高 限界の高齢者施設」
「暖房、食材…「何一つ削れない」
「倒産など過去最悪」

ここ最近の食費や光熱費などの高騰でコストが跳ね上がっているのに、介護サービスの利用料は国が決めているため、料金に転嫁できず、苦境にあえいでいる介護施設が続出している、というものです。

当施設も例外ではありません。

たとえば、電力料金。
2022年12月分(11/1-11/30)は約348万円。前年同月102万円から一気に246万円も上がりました。
翌23年1月分(12/1-12/31)は約339万円。前年同月138万円から201万円アップ。
(表1)

(表1)

(表1)

要因は電力会社による電力料金の値上げに加えて、昨年同月に比べて使用電力量が12月分は113・7%、12月分は36%と格段に増えたことがあります。

この結果を受けて、時間帯別に使用量を調べてみました。
すると、起床時の午前6時半頃から昼食時の正午ぐらいまででもっとも高く、夕食時の午後6時を過ぎると低くなることがわかりました。それはご利用者の活動時間帯にあたり、多くは暖房使用によるものと考えられます。(グラフ1)

(グラフ1)

(グラフ1)

ではなぜ、今年度に限ってこうも使用量が多いのか?

考えられるのは、例年より気温が低いことが影響しているのではないかということです。

そこで、ここ4年間の月ごとの平均気温を調べてみました。

すると、1月分(12/1-12/31)は平均6・6度で、7〜8度台だった過去3年より低かったのですが、12月分(11/1-11/30)については平均14・6度で、去年の平均より1・6度、過去4年でもっとも平均気温が高かったことがわかりました。(表2)

(表2)

(表2)

では原因は何かと考えあぐねた結果、思い当たったのは、この夏に新型コロナのクラスターに見まわれた苦い経験から、日中は2時間ごとに10分間、施設内の空気を入れ換える作業を徹底させたことが影響しているのではないかということです。

その根拠として、例年と比べて8月以降、毎月の電力使用量が急増していることがあげられます。(表3)

(表3)

(表3)

例年ならば10月と11月は穏やかな気候が続くことから電力使用量は低くなります。今年は特段に気温が高かったり低かったりしたわけでもないのに、空気の入れ換えにより外気にさらされる頻度が増えたため、冷房も暖房も使わずに済んだ期間はほぼなかったことがデータに表れています。

前述のとおり、12月分(11月)については平均気温が14・6度なので、室内ではおそらく20度ぐらいのはずだからそれほど暖房を入れる必要はなかったのが、定期的に窓や扉を開け放ったことで、ご利用者から寒さの訴えが相次いで暖房をフル稼働することになったというわけです。(表2)

(表2)

(表2)

しかし、もしそうであるならば、1月分(12月)はより寒くなるため、使用電力がもっと上がっているはずではないかという疑念が起こります。

この点について考えていたとき、最新の2月分(1/1-1/31)の電力使用量の集計結果が出て、これを見て驚愕しました。
というのも、当該月の電力使用量は76,405kWhで前月より27%、昨年同月より14%落ちていたのです。ちなみに電力料金は約232万円で1月分より約100万円安くなりました。(表4)

(表4)

(表4)

考えられる要因の一つは、12月の職員会議や朝礼などでわたしが電力使用量と料金の資料を示したことがあげられます。

だからといって、新型コロナ予防対策を緩めるようにとか、ご利用者に寒さを我慢してもらうようにとか指示したわけではありません。
ただ、スタッフにとっても自分の家庭の電気料金が値上がりしていることから生活実感として伝わりやすく、節約意識が強く働いたと考えられます。

しかし、最大の要因は、年末年始から寒さがより強まったせいで体調を崩すご利用者が増えたことだと考えます。
すなわち、ご利用者の体調に配慮して、スタッフが意図的というよりも心情的に窓と扉を解放する頻度と時間を加減した
のだと思います。

今回の分析をしながらつくづく思ったのは、新型コロナ予防対策にしっかり取り組めば取り組むほど、使用電力量が膨れ上がり施設の経営を圧迫しているというジレンマです。

愛知県では昨年末に「社会福祉施設光熱費高騰対策支援金」として1定員あたり3万円の助成金が交付される制度が始まり、申請が通れば当施設に315万円が交付されます。
しかし、みてきたように12月分と1月分だけで、昨年の同月よりもそれぞれ246万円と201万円の計447万円も電力料金が高くなっている状況なので、1回限りの助成ではその場しのぎにしかなりません。(表1)

(表1)

(表1)

介護保険制度のなかで運営されている介護老人保健施設は、行政の規制が厳しく、自由に利用料を上げることができません。

そうこうするうちに、光熱費、食材費、医療・衛生材料などがどんどん値上がりし、加えて慢性的な人手不足から人件費も高騰。このままでは施設を経営していけません。
行政には迅速な救済措置を講じてもらえるよう心から願う次第です。

2023/02/08 塚原立志

2023.02.08 | 介護社会論

講座「写真が語る昭和の小牧 戦争の時代をへて」ご案内

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こまき市民文化財団から2年前に依頼を受け、新型コロナで延期されていた「ゆうゆう学級」の講座をおこなうことになりました。

この間、ロシアのウクライナ侵攻があったことから、たんなる郷土史ではなく昭和の戦争にテーマをしぼることにしました。

取材を進めるうちに、自分が知らなかった戦前戦中の小牧のすがたがよみがえってきました。

残念ながら、今回の講座は事前登録制のため、一般の方は受講できません。

以下、ご案内だけさせてもらいます

GM塚原立志

行幸橋を渡る昭和天皇

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講座「写真が語る 昭和の小牧 戦争の時代をへて」

講師 塚原立志

内容
昭和2年(1927)の「陸軍特別大演習」から、戦時中の「陸軍幼年学校」開校、「陸軍小牧飛行場」建設、空襲、終戦まで、小牧と関係の深い出来事、戦争史跡、人物などを、当時の貴重な写真と新たに取材した写真、約120枚を見ながら、戦争について考えてみます。

日時 令和4年7月6日(水)午前9時30分〜11時30分

場所 小牧市公民館 4階 視聴覚室

2022.07.04 | 歴史と文化

優生思想のホリエモンにランナーの気持ちを代弁されるいわれはない


「大阪マラソン2016」のスタート会場、大阪城公園に集まるランナーたち

「大阪マラソン2016」のスタート会場、大阪城公園に続々と集まるランナーたち。撮影筆者

2月27日に開催予定の「第10回大阪マラソン」について、大阪府の吉村知事は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う医療体制のひっ迫を考慮して一般ランナーの参加を見送る判断をしました。

昨年の第4波に続き、今回の第6波でも全国ワーストの死者数を出す医療提供体制の大阪が、そもそも、2万人もの市民ランナーを集めてマラソン大会を開催する決定をしたこと自体、時期尚早と思っていました。だから、今回の知事の判断はあたりまえだし、「まん延防止等重点措置」が発出された段階で決定を出すべきでした。

ところが、この判断に対し、ホリエモンこと堀江貴文氏がツイッターで次のように批判しました。

「笑。マラソンに向けてコンディション整えてたランナーの精神的な落ち込みとか気にしてんのかなー。やる気まじなくなるよね。こういう適当な対応されると。単に自分の政治的生命の先行きしかみてねーよな。有権者のマジョリティが高齢者だからな。なんかさ、残念だな」

「それでせっかく普段から運動して健康レベルを高く保つ人たちを蔑ろにしてほっといても健康レベルが低い人たちの延命に邁進する。マジで短期的政治生命だけを考えた対応で失望した」

堀江貴文氏のツイッターから

堀江貴文氏のツイッターから

堀江貴文氏のツイッターから

堀江貴文氏のツイッターから

この発言でまず感じたのは「生産性の低い高齢者は早く死んだほうがよい」といわんばかりの露骨な優生思想です。

このような考え方は、人命よりも経費削減を優先して医療崩壊を招いた当の大阪維新の会にも共通するところですが、ホリエモンからすれば「少しはマトモ」と思っていた吉村知事が「転んだ」ことにガマンがならなかったのでしょう。

まったく、クレイジーとしかいいようがない暴言ですが、なかでも違和感を禁じえなかったのは「マラソンに向けてコンディション整えてたランナーの精神的な落ち込み」(ママ)とか、「せっかく普段から運動して健康レベルを高く保つ人たちを蔑ろにしてほっといて」とか、まるで市民ランナーの気持ちを代弁しているかのように語っている点です。

フルマラソンや100kmウルトラマラソンを何度も走ってきた経験からわたしは、このような発言ができるのは、彼がフルマラソンを走ったことがないからだと思います。

マラソンは過酷です。走っていると身も心も限界に近づきます。そんなとき、くじけそうな自分の背中を押してくれるのは沿道の人たちからの声援であり家族や友人たちの存在です。

こういうと、新自由主義者のホリエモンは、きっと「笑。意志が弱いだけの甘ったれ小僧」などと木で鼻をくくったような態度をとることでしょう。

しかし、100kmとなると、どんなにコンディションを整えていても、自分の力だけを頼りには走破できません。70kmに差しかかる頃には体力は限界に達し、リタイアしたい気持ちと葛藤しながら気力だけで走っています。いつしか、ランナー同士に競争意識は失せて、励まし合いながらゴールをめざそうという連帯意識が芽生えています。

そして、ゴールできたときには、自分はおのれ一人の力で生きているのではなく、多くの人たちによって支えてもらっているんだという感謝の気持ちでいっぱいになります。きれいごとのように思われるでしょうが、これは実感です。

「富士五湖ウルトラマラソン2019」雨の中でのゴール

「富士五湖ウルトラマラソン2019」雨の中、手をつないでのゴール。筆者は右

また、マラソン・ランナーはだれもが故障して走れない時期を経験しているはずです。だから、参加の中止は残念だったとしても、「健康レベルが低い人たち」を押しのけてまで、自分が健康レベルを高く保ちたいとは絶対に思わない、とわたしはいいたい。

ホリエモン、あなたごときにランナーの気持ちを代弁されるいわれはない。

2022.02.19 | マラソン

20km走って小牧山城「裏込石」参加企画に一番槍!

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永禄6年(1563)に織田信長が築城した小牧山城の石垣を復元する小牧市のプロジェクト

小牧山発掘調査で出土した、重臣「佐久間」と墨で書かれた石垣石材にちなんだのでしょう、先着順で石垣の中に詰める「裏込(うらこめ)石」にメッセージが書けるということで、2月11日建国記念日、参加してまいりました。

といっても、ただ参加するだけではおもしろくないので、発掘調査現地説明会のときと同様、早朝ランニングしたついでに受付会場にたどり着く計画を立てました。

朝6時45分に自宅をスタート。大山川沿いさかのぼり、9km地点の「四季の森」で折り返すと、元の川沿いの道を下って一路東の小牧山までトータル20km

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8時35分頃、小牧山ふもとにある「れきしるこまき」に着いたら、9時の受付開始に対し、もうかなり人が並んでいました。そこには目もくれず、もうひとつの受付会場である山頂の歴史館まで約1kmを駆け上がりました。

コロナ前はいつも走っていたコースですが、ひさびさに来てみるとオフロードが舗装されていました。
それでも19km走ったあとだったからラスト200mの勾配は結構タフでした。

8時40分頃、ゼイゼイ息を切らしながら山頂の受付会場に到着すると、一番槍、もとい一番乗りでした。
受付でもらった「参加記念証」の左下には「00001」のナンバリング。なんというラッキー! 山頂まで走ってきたかいがありました。

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9時に受付開始。裏込石は25cmぐらいで、思っていたより、大きく角張っていました。
そこに筆ペンで、豊寿苑と家族と世界の平穏への願いを込めて「平安」と大書しました。
450年後、石垣の中から発見してもらえるかな?

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2022.02.15 | エッセイ

誰のためのワクチン接種?

当施設では、2022年1月11日から職員に対する3回目のワクチン接種を始めました。

施設でのクラスター発生の原因はたいがい職員が持ち込んだウイルスなので、1月21日から「まん延防止等重点措置」が適用されるギリギリのタイミングでほぼ全職員が接種できたことに少しホッとしています。

「ほぼ全職員」というのは、本人の意思で前回同様、接種を受けなかった職員が一人だけいます。

昨年、医療従事者ワクでの優先接種が始まる時、本人から接種しない申し出がありました。

「ワクチンを打つと血栓症になると聞いたから」というのが理由です。

その人物は利用者とじかに接する仕事ではないものの、建物内に出入りするし、なによりも本人が感染リスクの高い高齢者なので、アレルギーや急性疾患を抱えているわけでもないことから、ぜひ接種してもらいたいとわたしはこう説得を試みました。

「英国で血栓症が報告されたのはアストラゼネカ社製のワクチンであって、今度打つのはファイザー社製だから心配しなくてもいいですよ」

「それに血栓が起こりやすいのは男性より女性、とくに若い女性と聞いているのでまず大丈夫ですから」

それでも、かれは「5年後に血栓症になるとまわりの人たちが言っていた」という根拠のないガセ情報を真に受けて、ついに首を縦に振りませんでした。

そのかれですが、週2日勤務で利用者との接点がほとんどないことからこれまで大目に見てきましたが、今回のオミクロン株の急速な感染拡大でついに出勤停止を申し渡しました。

かれは指示に従いましたが、納得できないようでした。

先日、フランスのマクロン大統領は、未接種の感染者急増が病床を圧迫している事態を受けて「うんざりさせてやる」と発言し物議を醸しました。

接種しなければ、飲食店、文化施設、公共交通機関などを利用できなくするフランス政府の「ワクチンパス」はやり過ぎだとわたしは思います。

しかし、未接種者は本人が感染しやすいだけでなく、感染した場合、他人にうつすリスクが3倍近い高さになるなどと、どんなに言葉を尽くしても、自分に関しては感染しないと思い込んでいるひとを前にして、「うんざりさせてやる」と罵りたくなる気持ちもわからないではありません。

3回目のワクチンを打った職員のなかにも、本当は気は進まないけれども、重症化リスクの高いご利用者の安全を守るためにはやむをえないとしぶしぶ接種したひとも少なくないはずです。

本人の意思を尊重したうえで、感染対策の徹底を図りたい施設の意向と相容れなかったのですから、そのペナルティは甘んじて受け入れるべきでしょう。

強権国家ではない多様な意見を尊重する民主主義の国だからこその悩みなんでしょうね。

2022.01.20 | エッセイ

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