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Poison & Medicine ブログ 毒と薬

2025.8.15

歴史と文化

語り継ぐ「小牧と太平洋戦争」⑤

重巡洋艦「鈴谷」の壮絶な最期

突如、耳をつんざく大爆発が起こり、沖本さんは煙突の柱に吹き飛ばされました。直後、艦全体が言いようのない金属音を発しながら激しく震え出しました。

我に還った沖本さんは、あたりを見まわしました。

高角砲台が飴(あめ)のように圧しつぶされ、その下に砲員四、五名が圧しつぶされ、上部機銃台は千切れ飛び、甲板は波状にでこぼこして歪んで、あたり一面、紅を流した血の海でした。
あちこちで負傷した兵の泣き呼ぶ声、うめき声。(…)この世の地獄を見るとはこのことかと、後日、たびたび夢に見たものです。

「手記」より

退艦命令の緊急通報が鳴り響くなか、沖本さんら乗組員は次々と海に飛び込みました。

やがて、鈴谷は、赤い船腹を見せ、炎を吹き上げながら、まるで巨大な鯨が息を引き取るかのように海中へ沈んでいきました。

鈴谷の壮絶な最期に、海上で浮遊していた兵・下士官たちは敬礼し涙を流しながら「海ゆかば」を口ずさんでいました。

人食いザメの襲来

沖本さんは、大きな丸太に7人でつかまりコバルトブルーの海を漂いました。しかし、波に洗われるうちに体力を奪われた兵たちが一人、また一人と脱落。

ついに3人になったころ、20メートルほど先に浮かんでいた兵の「ぎゃあー」という悲鳴が聞こえました。

サメは必死でもがく兵を咥(くわ)えて、四、五メートル、水中に引き込み、横転しながら体全体で食い切ろうと首を振り何べんも横転し、そのたびに兵の体から真っ赤な血が噴き出し、水中でなにかを燃やすように紫色の煙になってゆっくりと広がっていき、兵の白い服がピンク色に染ま(っていました。)

「手記」より(カッコ内は捕捉)

三途の川を渡る手前で

やがて夜が訪れました。
沖本さんは睡魔に襲われ、ついに丸太から手を離してしまいました。

星が瞬く夜の海を一人、漂いながら、沖本さんは「夜光虫に染まった自分の手足が青白く透けて見えるほどになってもぼけた頭ではなにも感じることはありません」でした。

そのとき、左手に何かがコツンと当たるのを感じ、引き寄せてみると、縦横30センチ、長さ2、3メートルほどの角材でした。

沖本さんは汗取り用に腹にさらしを巻いていたことを思い出し、これを角材に巻き付けると眠りにつきました。


このとき、沖本さんが見た夢について、原文を省略・補足しながら引用してみます。

夢は春のような柔らかさで (…)蓮華草の咲き乱れた一面の花畑の中を、馬も人もいない美しい金色の馬車 (が)風のようにふわっと走っており、その中から誰かが「早く乗れー」と呼んでいるような声が聞こえ、手招きしているようなのでなんとかあの馬車に乗ろうと体を動かしてみるが、 (さらしを)縛りつけた角材が重く、動くことができず (にいるうちに)馬車は消え美しい蓮華畑も溶けて (ゆきました。)

「手記」より(カッコ内は捕捉)

沖本さんは、この世とあの世の境界にある三途の川を渡る手前でした。

(続く)

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