6月4日、小牧市に拠点を置くNPO法人中部フィルハーモニー交響楽団の金管五重奏によるボランティア演奏会が豊寿苑でおこなわれました。
これは楽団の地域貢献活動の一環として、市内の小中学校や福祉施設などをメンバーが数名単位で巡回する出張コンサートで、当苑へはだいたい2年に1回ぐらいの割合で来ていただいて、たぶん今回で4回目か5回目。ちなみに、前回は弦楽五重奏でした。
今回の金管五重奏は、トランペット2、トロンボーン1、ホルン1、テューバ1の編成。クラシック音楽家というと、神経質で取っつきにくいイメージがありますが、全員男性だったこともあってか、みなさん、気さくでおおらかな方たちばかりでした。
当日の演目は、久石譲作曲による『となりのトトロ』の映画音楽メドレー、テレビ時代劇主題曲メドレー、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌「ドレミの歌」、美空ひばり「川の流れのように」など、ポピュラー音楽中心で純クラシック音楽は1曲もありませんでした。
気さくさといい、選曲といい、市民楽団としての親しみやすさをピーアールしようとの意図が強く感じとれました。
会場は豊寿苑1階ホール。聴衆は入所と通所のご利用者を中心に約80名。
オープニングは「トドラー・ファンファーレ」。ブラス・アンサンブルの、つき抜けるような心地よい音色が苑内に響き渡りました。
このあと、ノリのいい楽曲が次々とくり出され、いつしか会場は陽気でなごやかなムードに包まれました。
なかでも印象的だったのは、テレビ時代劇主題曲メドレーでの『大江戸捜査網』のテーマ。ホルンとトロンボーンの雄壮さとトランペットの疾走感との畳みかけるようなアンサンブルは、エルマー・バーンスタイン作曲の西部劇『荒野の七人』のテーマ曲の影響が感じられました。
それから、坂本九の「上を向いて歩こう」をディキシーランド・ジャズ・スタイルで演奏したのにも感心しました。テューバの低音が活きた跳ね上がるようなジャジーな裏ノリがとても心地よかったです。
「上を向いて歩こう」は、だれもが知っている大スタンダードですが、作曲した中村八大は終戦後のモダン・ジャズを代表する名コンボ「ビッグ・フォア」の元ピアニスト。だから、オリジナルもオフビートのジャズっぽい黒いノリです。なぜ、この曲がアメリカのビルボードで1位を獲得するなど、世界中で愛されているのか、なぜ、いまだにお年寄りがこの曲にノリきれないのかは、そういう理由があると思います。
ちなみに、この日もスタッフたちがこの曲を、お年寄りと同じく、オンビート、いわゆる「表ノリ」、もっと平たくいえば「民謡のノリ」で手拍子を取り始めました。あわてて、いっそう大きな手拍子をしてオフビート(裏ノリ)に流れを持っていきました。
人口15万人の小牧市にプロの交響楽団があるというのは、小牧市の文化レヴェルの高さを対外的にアピールすることにもつながるし、たいへん誇らしいことだと思います。中部フィルのいっそうの活躍をお祈りします。
2015.06.15 | 地域交流
小牧小学校は、小牧の市街地で明治6年(1873)に開校、昨年、創立140年を迎えた伝統校。じつは私も卒業生です。
8、9年ぐらい前から、総合学習の一環として小牧小の生徒さんたちが豊寿苑を訪問してくれるようになりました。
今年は10月22日と24日の2回、5年生が2クラスごとに約70名ずつ来てくれました。
まず、生徒たちがクラスごとに話し合って決めた歌や演奏、ダンスといった出し物を披露します。
そのあと、生徒たちを囲むようにU字型に並んだお年寄りたちのところに行って、一人ひとりと対面でふれあいます。
滞在時間は1時間程度ですが、世代も生活歴もまったくちがう、かれらにとっては「エイリアン」といっていいようなお年寄りたちとの対面的なコミュニケーションが、家庭や学校とは別の社会との係わりの第一歩につながればいいと感じています。
また、お年寄りの心からの「ありがとう」の言葉を受けとめ、社会のなかで自分がひとの役に立っていることに気づいてくれたのなら、これ以上の喜びはありません。
別れ際に、感激のあまり涙を流している生徒たちやお年寄りたちを見ると、「いいことをしてよかった」という気分にさせられます。
今年もどのクラスも元気いっぱいで、それぞれに個性があってお年寄りのみなさんはとても喜んでおられました。
そのなかで、あるクラスがたいへん興味深い劇を見せてくれましたので、そのことについてくわしく書かせてもらいます。
演題は『桃太郎と桃次郎』。
生徒たちのオリジナルで、いうまでもなく、昔話『桃太郎』のパロディ。話の流れは『桃太郎』のまんまなので、ここではポイントのみ記します。
桃太郎と桃次郎が鬼ヶ島へ向かう途次、イヌ、サル、キジのほか、スギちゃん、小島よしお、ふなっしーといった芸人やキャラと出会って次々とお供に加わっていきます。
こうして鬼ヶ島に着いたときには桃太郎一行は大所帯にふくれ上がっていました。その数に圧倒された鬼たちはのっけから戦意喪失。善良で気弱でマイノリティーという鬼のほうにシンパシーを感じてしまったのは、たぶん私だけではないでしょう。
そのあと、経緯は忘れましたが、お互いにあまり戦意が感じられない桃太郎たちと鬼たちとのあいだで牧歌的/遊戯的なバトルがくり広げられます。こうして収拾がつかなくなったかれらの前に、水戸黄門一行が現れて事態を丸く収めてメデタシ、メデタシ。
あとで先生にうかがったら、この話はこの夏の野外合宿のときにみんなで考えたとのことでした。
私は、これは生徒たちの集合的無意識が反映されたクラスの物語だと思いました。その理由はいくつかあげられます。
まず、主役が桃太郎と桃次郎の二人ですが、これは一人だけがクラスで目立ってしまうことへの自己防衛のあらわれのようにも解釈できます。昭和36年(1961)生まれの私の時代だったら、いい意味で目立つことについてはクラスから容認され、尊敬もされていたのと隔世の感を禁じえません。
同じように、作者が生徒の一人ではなくみんなの共同脚本であるところもそうしたあらわれでしょう。
また、鬼ヶ島へ鬼退治に出かける桃太郎一行には「正義」の正当性の根拠(正当性があってこその正義なのに)が見当たりません。つまり「正しさ」の拠り所が内在的な倫理基準にではなく、最大多数の同調にあるあたりがいかにも現代的です。
だから、別に知らなくてもどうってことない、ダンディ坂野や小島よしおといった一発屋のネタを知っていることが仲間への参加要件になるのです。
鬼は悪事をはたらいたから成敗されるというより、バラバラで個性的なキャラクターの集まりである桃太郎一行が仲間としてまとまるための口実でしかないような気がします。あえていうなら、鬼であること、仲間に同調できないマイノリティーであることが退治される理由なのです。
桃太郎一行と鬼たちとのあいだには善と悪という二元論的な対立はありません。両者は見た目も性格もまったく同じで入れ替え可能です。差異がないから雌雄を決する戦いにはなりえず、中味がなく、とりとめもないやりとりがネバーエンドでくり広げられるのです。
脈絡なく降臨してくる水戸黄門は、このゲームを強制終了させるための手段です。第三項としての水戸黄門は、いうまでもなく担任の先生のメタファーです。葵の御紋という圧倒的な力を借りるほかに事態の収拾が図れないということなんでしょう。
先生の調停によってざわざわしていたクラスは一つにまとまるというハッピーエンド。しかし、この平和は長く続かないだろうことは東西冷戦終結後の世界を見てきた私たちはもちろん、当の生徒たちもなんとなくわかっているはずです。
まったく、子どもたちの創造力にはブッ飛びました。子どもはまさしく社会の鏡ですね。
2014.12.03 | 地域交流
遅ればせではありますが、去る9月27日(土)秋晴れの小牧小学校運動会に、デイケアご利用のみなさんと観覧して参りました。
車イスご利用のお年寄りへの配慮として、特別にグラウンドののすぐそばまで送迎車を寄せさせていただきました。天幕付の眺めのいい観覧場所にご案内いただいたところに、生徒代表の男子から元気でしっかりしたごあいさつをいただきました。そのあと、一人一人にお茶などを配っていただいて、至れり尽くせりでした。
デイケアのみなさんは、毎年、豊寿苑で昼食を済ませ午後の部から観覧させていただいております。
ブラスバンドとバトントワラーズによる「ザ・ドリル」、短距離走、組み立て体操など、生徒さんたちの一生懸命がんばっている姿をご覧になって、みなさん、歓声を上げたり目を細められたり大満足のご様子でした。
保護者や先生たちによる綱引きには、毎年恒例、われわれ豊寿苑スタッフで参加させてもらいました。
屈強そうなおとうさんたちに混じって、オレンジ色のユニフォームを来た女性スタッフがひときわ目立っていました。私も、ローリング・ストーンズの東京ドーム公演のときに買ったかれらのトレードマークであるくちびるからベロを出したハデなTシャツを着て参加。お年寄りのみなさんの期待を一身に背負っ て、しかも赤組の最前列で、本気モードで戦いました。結果は1勝1敗の引き分け。なんとか面目が立ちました。
翌日、女性スタッフたちはみんな筋肉痛になっていました。来年は軍手持参で参戦せねば‥‥。
2014.11.21 | 地域交流
10月12日(日)秋の穏やかな陽気のもと、小牧神明社の天王・南宮祭がおこなわれました。 俗に「お馬祭り」と呼ばれているこのお祭りでは、小牧市指定無形民俗文化財に指定されている五本棒オマント奉納神事がおこなわれます。 尾張藩初代徳川義直候が小牧村に下賜した「五本棒」を馬の鞍に飾り、義直が自ら書いたというサルの絵の旗を立てて、町内を練り歩き神明社に奉納する神事です。
毎年、馬と祭礼係の人たちの休憩を兼ねて豊寿苑の駐車場に立ち寄っていただきます。今年は過ごしやすい天候だったせいもあって、大勢のご利用者が外に出て馬の行列の到着を待ちました。
馬が自分の目の前を通り過ぎるや、ふだんあまり表情のないご利用者まで、思わず驚きと歓喜の声を発しているのを目にして「アニマル・セラピー」を思ってしまいました。
馬の世話係のひとからにんじんを受け取ると、おっかなびっくりしながら楽しそうにエサを与えているお年寄りの姿もありました。
それから、馬の長い手綱を持ってはっぴ姿で練り歩く子どもたちとのふれあいもとても楽しそうでした。
近ごろ介護施設の「地域密着」がしきりといわれますが、豊寿苑はその母体が80年以上前からこの場所にあったからこそ、このような伝統行事と身近にふれられるのだし、そういう意味では「地域密着」どころか「地域と一体」といっていいとさえ思ったひとときでした。
2014.10.28 | 地域交流