毒と薬

介護士は心霊がお好き?(その1)

毎朝礼時、出勤スタッフの一人が、みんなの前で簡単なスピーチをする「今日のひとこと」というのをやっています。

コミュニケーション力を身に付けさせようと、始めてかれこれ7、8年。ところが、実態は「体調管理に気をつけましょう」という程度の、差し障りのないプレーンな話題ばかり。そのあまりの無気力ぶりに朝から目一杯ヤル気をそがれてしまうこともしばしば。それでも、ときには、こんな興味深いエピソードに出会えます。

その日、スピーチしたのは、20代の男性介護スタッフ。休日に岐阜県の下呂温泉にある滝を見に行ってきたそうです。そこはパワースポットと呼ばれる場所で、かれは滝の強力なマイナスイオンのエネルギーを大量に体内に取り込むことができたと自慢していました。

「それって、たんに滝の細かい水の粒子が肌に当たってヒンヤリ気持ちよかっただけのことだろ?」
と、ツッコミたいのを黙っていると、若い女性スタッフがすかさず、明治神宮にも有名な場所があって、あるお笑い芸人はそのパワーのおかげで仕事がたくさん舞い込んできたと大まじめに話しはじめました。

朝の話題に対してほかのスタッフからリアクションがあるというのはきわめて異例のこと。若いひとたちのあいだでパワースポットはそんなにブームなのかとちょっと驚きました。

木・岩・滝といった物や場所、あるいは人にある種の力が宿っているという考え方は、日本古来のカミ観念でめずらしいことではありません。
おもしろいと思うのは、これらが、マスメディアやケータイの情報ネットワークのなかから、パワースポットとして突如として浮かび上がり、爆発的に普及したかと思うと、あっという間に消え去ってしまうという点です。パワースポットは、まさしく現代の霊場、心霊スポットのホワイト・マジック・ヴァージョンなのですね。

2010.09.15 | 介護社会論