毒と薬

命を守るのは設備よりも人〜福岡の有床診療所火災を受けて

10月11日未明、福岡市にある有床診療所(19床)で火災が発生。

入院患者と前院長夫妻の計10人が亡くなられました。 この報に接したとき、まず思ったのが「火の元がほとんどないはずの診療所でどうして火災が?」ということでした。 続報で出火元はリハビリ室にある温熱療法に使うホットパック装置とのこと。装置のプラグ(差し込む方)を長い間、コンセント(差し込まれる方)に差し込んだままにしておいたために、コンセントとプラグの間にほこりがたまり、ほこりが湿気を呼び込み、プラグの絶縁状態が悪くなって発火したということでしょう。「トラッキング現象」と呼ばれているものです。

ホットパック装置とは、ホットパックを温めておく熱湯の水槽のこと。当法人のリハビリ室にもありますが、お湯を使うことから、コンセントは差し込み口が下を向いたカバー付きの防水コンセントにするのがふつうです。しかもプラグをコンセントにねじ込む仕様なので、プラグとコンセントとの間にほこりがたまるすきまはほとんどありません。ということは、今回の火災でリハビリ室のホットパック装置が火元だったというのが本当なら、コンセントは防水タイプではなかったと考えたほうがいいと思います。

リハビリ室のホットパック装置。フタを開けたところ

リハビリ室のホットパック装置。フタを開けたところ

ホットパック装置のプラグは防水コンセントに差し込んである。

ホットパック装置のプラグは防水コンセントに差し込んである。

もうひとつ、個人的に気になるのは、火災時、鉛のピンが熱で溶け自動で閉まるはずの防火扉が作動しなかったせいで被害が拡大したといわれている点です。

今回の火災を受けて、当法人でも緊急に火災設備の点検をおこないました。
とくに塚原外科・内科には、2階と3階の一部に、福岡の有床診療所と同じ19床の入院病床があり、同じようなタイプの防火扉と防火シャッターが設置されています。指摘されているように、これらは建築基準法の対象であり、消防法の点検項目ではないことから、防火管理者である私自身、今回の点検で初めてくわしく動作確認した次第です。

そのとき思ったのは、この程度のシンプルな構造なら、もし防火扉が自動で閉まらなかったとしても、夜勤の看護師が手動で防火扉を閉めに行くことはできたかもしれない、ということです。

当診療所の防火シャッター。点検は天井裏のヒモを引いて手動でおこなう。

当診療所1階の防火シャッター。

そのほかにも有床診療所にスプリンクラー設備の設置義務がなかったことが指摘されています。たしかにスプリンクラーが備わっていれば、あれほどまでの被害にはならなかったと思います。
塚原外科・内科は、福岡市の有床診療所と同じく、転換型の療養病床19床の「有床診療所」です。「病院」に長期間、入院するのが難しく、といって老人保健施設に入所するには医療的なニードが高く看護師による見守りが常時必要なお年寄りがおもに入院されています。
患者一人あたりの保険給付額は、診療報酬改定のたびごとに下げられ、患者さんからいただく室料がなければ完全に赤字経営というのが実情です。今回の火災を受け、有床診療所にもスプリンクラーの設置の義務づけが検討されているようですが、そうなれば、おそらく病床を閉鎖するしかないでしょう。

当診療所2階の病棟廊下。左に防火扉。上が避難誘導灯。右が避難階段。

当診療所2階の病棟廊下。左に防火扉。上が通路誘導灯。右が避難階段。

当診療所2階の病室廊下の防火扉を閉めたところ(病室側から撮影)。

当診療所2階の病室廊下の防火扉を閉めたところ(病室側の廊下から撮影)。

このように、今回の有床診療所の火災についてハード面の不備ばかりがいわれていますが、気になるのは火事に最初に気づいた看護師の不可解な行動です。「外に出て、通りかかったタクシー運転手に通報を頼んだ」という新聞報道が本当なら、従業員への防火管理教育はちゃんとおこなわれていたのか、疑問を持たざるをえません。大切なのは、通報、初期消火、避難誘導など、従業員への防火管理意識の徹底です。防火管理教育が従業員にしっかり行き届いていなかったことが被害が拡大した大きな要因だったのでは、私は考えます。

当法人では、6月と11月の年2回、豊寿苑と外科・内科の従業員を対象にした消防訓練をおこなっています。たまたま11月に夜間想定訓練の実施届出書を消防署に提出しようとしていた矢先に今回の火災がありました。
そこで今回は急きょ内容を変更して、豊寿苑ではなく診療所の1階から深夜、出火したとの想定で通報、初期消火、避難誘導訓練をおこなうつもりです。

大切な命を守れるのは、最終的には設備や機械ではなくひとなのです。

2013.10.23 | 介護社会論

なんでも事務長のせい?〜松浦病院の不正受給に思う

当苑のすぐ近く、犬山市にある老舗の医療機関、松浦病院で、06年7月から昨年8月で約17億5千万円にのぼる診療報酬の不正受給が発覚し、近く指定医の取り消しがおこなわれることを新聞で知った(朝日新聞2013年10月10日朝刊)。

今回の報道で私が憤りを感じたのは、不正請求そのものに対してもそうだが、それ以上に「書類の届け出は事務長に任せきり」で自分は知らなかったと語ったという理事長の発言に対してである。「知らなかった」というのはおそらく事実だろう。だが、それは統一球変更問題での加藤コミッショナーとおなじで、組織の長としてあまりに無責任な態度ではないか。

医療法人の理事長は原則、医師または歯科医師でなければならない。そのため、医学的な知識はあっても経営者として財務や組織管理の知識に乏しい人たちも少なからずいる。そんな医者に限って、設備の決裁権や人事権といった面倒なことを事務長に丸投げしてしまい、事務長に権限が集中してしまうという話をよく耳にする。

ところが、そのような事務長でさえ、金融機関などからの借入の内容など、法人全体の財務状況を把握していない場合が多い。つまり、事務長とは、医療や介護の現場レベルでの権限を与えられ、職場環境の維持と現場の売り上げの最大化を課せられている一般の会社でいう部長級に近い。それならまだいいほうで、日用品や消耗品などの備品購入以外には決裁権が与えられていないチェーンストアの雇われ店長みたいな事務長さえいる。

かれらと接していて感じるのは、組織に対し驚くほど忠誠心が高いことである。そのおこないが社会道徳的に許されるかどうかはとりあえず棚上げにして、トップの意向に従って動くのが雇われ身分でしかない自分たちの宿めであるといわんばかりだ。そのことは一般企業にも当てはまるとしても、ポイントはトップから具体的な指示があるのではなく、トップの意向を汲んで動くということである。なんだか、二・二六事件で青年将校らが拠りどころにした「大御心」みたいだ。

理事長の多くは医業に時間をとられ経営に深く携わる余裕はない。ところが、その穴を埋めるはずの事務長は現場サイドでの目先の収益確保にとらわれてしまう。ここから抜け落ちているのは、大局に立った法人としてのビジョンや方針である。

今回発覚した17億5千万円もの不正受給は法人を売却したぐらいでは足りないとさえいわれている。松浦病院の実情はよく知らないが、法人としての生き残りを考えるのなら、多少の血は流れても、もっと早い段階で不正請求を撤回する経営的な決断が必要だったと思う。それは現場で直接指揮を執っている事務長の仕事ではない。暴走する機関車を止めることができるのは経営陣だけである。

経営陣にはたして経営することへの意思と自覚はあったのか? 自分たちのことをオーナーぐらいにしか思っていなかったのじゃないか? なんでもかんでも事務長のせいにするのは、いいかげんにやめてもらいたいものである。

2013.10.15 | 介護社会論

『あまちゃん』音楽の大友良英直筆「プロジェクトFUKUSHIMA!」応援のぼり旗

オアシス21での、大友良英とあまちゃんスペシャルビッグバンド

オアシス21での、大友良英(右端)とあまちゃんスペシャルビッグバンド(背景が応援のぼり旗)

参加型ライヴ「オーケストラFUKUSHIMA」。中央のグレーの帽子が指揮する大友さん。

参加型ライヴ「オーケストラAICHI!」。中央のグレーの帽子が指揮する大友さん。

2013年9月7日(土)と8日(日)、栄・オアシス21において、あいちトリエンナーレ2013の関連イベント「フェスティバルFUKUSHIMA in AICHI!」がおこなわれました。 こ

のイベントは、東日本大震災と福島原発事故をきっかけに、福島ゆかりの音楽家や詩人たちが集まって起ち上げたNPO法人「プロジェクト FUKUSHIMA!」によるもの。人びとが集い、語らえる「お祭り」の場を設けて、いまの福島、未来の福島を世界に向けて発信しようというプロジェクトです。

この日は、代表の一人でNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の音楽を担当している大友良英さん(写真ではギターを弾いています)率いるあまちゃんスペシャル・ビッグ・バンドの伴奏、共同代表の歌手、遠藤ミチロウさんらも参加して、「ええじゃないか音頭」「あまちゃん音頭」などをみんなで歌い踊りまくりました。

豊寿苑は、「フェスティバルFUKUSHIMA in AICHI!」に際して「プロジェクト FUKUSHIMA!」の取り組みに賛同し寄付させてもらいました。風呂敷をつなぎ合わせて作ったこののぼり旗はそのことの証しです。なお「老人保健施設豊寿苑」の文字は、大友良英さんの直筆です。

応援のぼり旗は豊寿苑1階エレベーター前に展示しています

応援のぼり旗は豊寿苑1階エレベーター前に展示しています

ちなみに、私、塚原立志は、『ミュージック・マガジン』2013年10月号のアルバム・ピックアップのコーナーで、『あまちゃん オリジナル・サウンドトラック 2』『あまちゃん 歌のアルバム』を1ページで紹介しています。

『ミュージック・マガジン』2013年10月号

『ミュージック・マガジン』2013年10月号

あまちゃん オリジナル・サウンドトラック 2

あまちゃん オリジナル・サウンドトラック 2

あまちゃん 歌のアルバム

あまちゃん 歌のアルバム

2013.10.02 | 音楽とアート